離婚・男女問題

どこからが「不倫」になるのか

 弁護士をしていると、夫婦間の離婚や慰謝料請求に関するご相談を頻繁にお聞きします。その中でも、離婚したい理由としてよくあげられるのが、配偶者による不倫です。民法770条1項1号には「配偶者に不貞な行為があったとき」を離婚原因と定められています。この規定から、夫婦は貞操義務を負っていると考えるのが一般的です※1。また、不法行為(民法709条)として損害賠償請求の根拠ともなりえます。

 では、どこからがこの義務に違反したことになるのでしょうか。性行為に及ぶことは典型例ですが、手をつなぐ、家に行く、キスをするなど、性行為に至らなかった場合はどうでしょうか。

 こういった事例でしばしば取り上げられる判例として、最高裁平成8年3月26日判決(民集50巻4号993頁)があります。この判決では、婚姻中に他の異性と肉体関係を持つことが不法行為になる理由を「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるから」としています。つまり、この判例の趣旨によれば、婚姻共同生活の平和を乱すような行為があった場合には、必ずしも性行為がなくても、離婚や慰謝料の請求が認められることになります。

 このような観点から、不貞行為を①性交又は性交類似行為、②同棲、③婚姻破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流・接触、の3つをいうとする見解があります※2

 下級審の裁判例では、必ずしも性行為の事実が認定されなくても、「婚姻共同生活の平和の維持」を侵害するものとして違法と判断された例があり、いくつか紹介します。

 東京地裁平成17年11月15日判決(平16(ワ)26722号)では、妻が男性と肉体関係を結んだとまでは認められないものの、互いに結婚することを希望して交際したうえ、当該男性が周囲の説得を排して、妻とともに、夫に対し、妻と結婚させてほしいと懇願し続け、その結果、別居および離婚に至らしめたという事例で、慰謝料として当該男性に対して70万円の支払いが命じられました。

 東京地裁平成25年5月14日判決(平23(ワ)16218号)では、性的不能である夫が、女性と性交はしなかったものの陰部を触らせるなどしたという事例で、当該行為が違法と判断されました(慰謝料が支払済みのため判決としては請求棄却となっています)。

 逆に、性的接触があっても離婚と慰謝料請求が認められなかった例があるので紹介します。横浜家庭裁判所平成31年3月27日判決(平30(家ホ)6号)では、夫がゲーム課金などで浪費していたうえ、デリヘルを利用して性的サービスを受けていたという事例で、夫が謝罪していることなどを考慮し、婚姻関係が現時点で破綻しているとは認められず、関係が修復される余地は十分あると認められるとして請求が棄却されています。

 このように、不貞行為に該当するか、離婚や慰謝料の請求が認められるかは、性的接触の有無といった形式的な判断ではなく、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益が侵害されたか否かを実質的に判断することになります。

 配偶者の不貞行為でお悩みの方、離婚や慰謝料の請求をされてお悩みの方は弁護士に相談してみてください。

                               2024年4月4日 弁護士 矢野 拓馬

引用
 ※1:窪田充見『家族法(第2版)』(有斐閣、2013年)57頁。
 ※2:安西二郎「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」判例タイムズ1278号(2008年)45頁以下。引用部分は46頁。

-離婚・男女問題