遺言・相続

生命保険と相続の関係

 近親者がお亡くなりになったときの財産的な問題として、相続と生命保険の関係について相談をお聞きすることが多いです。
 特に、被相続人(亡くなられた方)が多額の債務を負っているけれども、生命保険をかけているといった場合に、相続放棄をすべきかどうかというご相談があります。
 このような場合、まずは保険証券など契約内容がわかるものから、保険金受取人を確認する必要があります。

 保険金受取人が「相続人」など、保険契約者以外の者に指定されている場合、保険金請求権は、受取人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱していると理解されています※1。したがって、保険金は遺産ではありませんから、相続放棄をしたとしても受け取ることができます。

 これに対し、保険契約者と保険金受取人が同一人である場合、保険金は保険契約者兼被保険者の相続財産に帰属するため、相続人が相続を放棄すれば死亡保険金の受領はできません※2

 理論的にはこのような帰結となるので、私としては、あくまで一般論ですが、生命保険契約を締結する際には、契約者以外の方を受取人とすることをお勧めします。

 次に、保険金受取人が複数の相続人となり、一部の相続人が保険金を請求しない場合、保険金請求権はどうなるのでしょうか。例えば、保険金が3000万円で、兄弟3人が保険金受取人になっているものの、長男だけが相続し、ほかの2人は相続放棄をして保険金請求もしない場合、長男が取得できる保険金は1000万円か3000万円のいずれになるでしょうか。

 このような場合、裁判例では、「保険契約者は、別段の意思表示がない限り、保険事故が発生した後、各法定相続人が取得した具体的な保険金請求権の行使や処分を各人の自由意思に委ねたものと推認されるのであり、保険金受取人として指定された相続人のうちの一部の者が、保険事故発生後、自己の保険金請求権を他の第一順位の相続人に譲渡するのではなく、あえて保険金請求権放棄等の意思表示をした場合に、当該相続人の意思に反してその者の保険金請求権を他の第一順位の相続人に取得させることが、保険契約者の通常有する合理的意思であるということもできない。」とされ、請求権がほかの相続人に移転することはないとしています※3。つまり、保険金請求権を行使するか否かは各受取人の自由であり、一部の受取人が請求権を放棄したからといって、ほかの受取人の請求権が拡大するわけではないということです。

 亡くなられた方が保険を契約していた、負債がどれだけあるかわからないなど、相続に関してお悩みの方は、弁護士に相談してみてください。当事務所では、遺産分割協議・調停、相続放棄の申述など、相続に関するお手伝いをさせていただきます。

             2024年5月1日 弁護士 矢野 拓馬

引用
 ※1:最高裁昭和40年2月2日判決(民集19巻1号1頁)。
 ※2:遠山聡「保険金受取人の地位と相続の関係」自由と正義2023年9月号、17頁以下。引用部分は18頁。
 ※3:神戸地裁尼崎支部平成26年12月16日判決(判時 2260号76頁)。控訴審は大阪高裁平成27年4月23日判決(平27(ネ)208号)、上告不受理決定は最高裁平成27年10月8日決定(平27(受)1457号)。

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