自動車を運転していて他人に損害を与えた場合、損害賠償責任を負う可能性があります。自動車を保有している方の多くは、万が一の事態に備えて、自賠責保険のみならず任意保険にも加入しているのではないかと思います。
自動車損害賠償保障法(自賠法)は、自賠責保険の制度のみならず、自動車の運行によって生じた損害の賠償責任を規律する法律でもあります。
自賠法の適用対象となる「自動車」とは、道路運送車両法における自動車のみならず原動機付自転車も含むとされています(同法2条1項)。
それでは、ペダル付きの原動機付自転車(いわゆる「モペット」)を人力のみで走行している場合でも、「自動車」に該当するのでしょうか。
なぜ「自動車」に該当するか否かが重要かというと、①運行供用者責任の発生の有無、②保険の適用の範囲、の2点で差が生じるからです。
運行供用者責任とは、自動車の運行供用者が他人の生命または身体を害した場合に負う損害賠償責任です(自賠法3条)。
ここで、「運行供用者」とは、運行支配と運行利益が帰属する者を言います[1]。自動車の保有者は、盗難の場合などに例外はありますが[2]、原則として運行供用者に該当します[3]。
運行供用者責任は、一般的な不法行為(民法709条)と異なり、行為者に過失が無くても成立する場合があり、非常に重い責任です。
ここで2つ目のポイントに議論を移しますが、このように運行供用者責任が厳格なものであると、保険の適用の可否が重要になってきます。
仮に「自動車」にあたるのであれば、自賠責保険は必須ですし、任意保険の適用があるかについても検討が必要と思います。
また、近年は自転車についても保険加入の義務化が進んでおり[4]、保険に加入している人が増えていると考えられます。
自転車保険は、「自転車保険」という名称で販売されているものだけでなく、火災保険などに個人賠償特約などとして附帯させることができるものもあります。
仮に個人賠償特約の範囲内であれば別途保険加入は不要です。しかしながら、このような個人賠償責任保険は、原動力がもっぱら人力である車両による事故の場合には保険対象ですが、そうでない車両については対象外とされています。原動力が人力でない車両は、自動車保険の対象です。
それでは、冒頭でお話ししたように、モペットについて説明します。
①原付モード、②電動アシストモード、③人力モード、の3種類があった場合、③で走行中に発生した事故でも、個人賠償責任の補償の範囲内でしょうか。
裁判例[5]の事案は、モペットを人力のみで走行していた際に惹起した人身事故について、加害者が保険会社に対し、被害者への賠償金の負担を求めたというものでした。

この事案において裁判所は、モペットを完全に人力モードで走行中の事故でも、個人賠償責任保険の賠償範囲には含まれないと判断しました。
その理由としては、①個人賠償責任保険の趣旨、②モペットの道路運送車両法上の扱い、の2点を根拠にしています。以下で具体的に説明します。
①個人賠償責任保険の趣旨について、個人である被保険者が日常生活の中で、過失によって第三者の身体や財産等に損害を与え、当該第三者に対して賠償責任を負った場合に、これによって被保険者が被る損害をてん補することが目的であり、それ単体で締結されるより、主たる別の保険契約に特約として付帯されることが多く、個人賠償責任保険契約自体の保険料は通常低額に設定されています。潜在的に高い危険性を有する物の所有、使用又は管理に起因する賠償責任の負担に係る損害のてん補については個別の保険制度に譲られるため、第三者に対する賠償責任のリスク・金額が大きい事故類型を個人賠償責任保険から除外する趣旨であると考えられます。
そのため、個人賠償責任保険契約においては、一般的に賠償金額が高額になると想定されるような事故類型や重大な責任に発展する可能性がある事故態様等を保険金支払の対象から除外する規定が随所に設けられています。
②モペットの法令上の扱いについて、原動機付自転車に匹敵する危険性を有する車両と位置付けられており、被害者救済の観点から、自賠責保険による個別の補償の必要が高いことから、モペットは原動機付自転車に区分されています。
また、保険事故が発生した際にいずれのモードであったかという、保険給付を受ける被保険者にとって立証が困難な事情を明らかにしなければならないという負担を強いることや、保険会社にとっても容易に判別し難い事実を確定できなければ給付ができないことになるもので、保険実務の運用に耐えられるものではなく、適切ではありません。
したがって、原告の請求は棄却され、この事故を起こした人は、保険会社からの填補を受けられず、賠償を自ら負担しなければならなくなりました。
この判決の理論は保険約款の解釈として異論がないものと考えられています[6]。そのため、モペットによる他の交通事故の事案も、同様に処理されるのではないかと思います。
このように、保険の範囲外となると高額の賠償責任を自身で負担しなければなりませんから、電動アシスト自転車として販売されている物を購入した場合でも、それがモペット(ペダル付き電動バイク)にあたるのではないかという点を慎重に確認する必要があります[7]。
また、モペットにより事故に遭った場合には、自動車の交通事故と同じように損害賠償請求ができないかどうか、弁護士に相談するのがよいと考えられます。
2026年1月9日 弁護士 矢野 拓馬
[1] 最高裁判昭和46年1月26日判決(民集25巻1号126頁)。
[2] 最高裁昭和48年12月20日判決(民集27巻11号1611頁)。
[3] 潮見佳男『基本講義債権各論Ⅱ不法行為法(第2版)』(新世者、2009年)213頁。
[4] 例えば、滋賀県については、滋賀県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例が適用される(https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5404578.pdf)2025年12月15日閲覧。
[5] 大阪地裁令和5年12月14日判決(判時2614号53頁)。
[6] 匿名記事「判批」判時2614号53頁。引用部分は54頁。
[7] 大阪府警HP:「ペダル付き電動バイク」について(https://www.police.pref.osaka.lg.jp/kotsu/anzen/12/12066.html)2026年1月9日閲覧。