有給休暇は、労働基準法39条などに定められた労働者の権利です。有給休暇を取得すると、当該労働日の就労義務が消滅したうえで、賃金請求権が発生することになります[1]。使用者(会社)は、労働者が有給休暇を取得したからといって、不利益取り扱い(減給など)をすることはできません(労基法136条)。
では、会社から、有給休暇を使わせないと言われたらどうすればよいでしょうか。まずは、有給休暇の法的性質を確認します。
判例[2]によれば、労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して指定したときは、原則として当該労働日における就労義務が消滅します。そのため、年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないとされています。
労働者から有給休暇の指定があったときは、会社は、「不許可」とすることはできず、要件を満たす場合にのみ時季変更(別の日に変更する)ということができます(「時季変更権」と言います。労基法39条5項但書)。
その要件とは、「事業の正常な運営を妨げる場合」です。そのため、有給休暇の使用目的を理由として変更させることはできず[3]、そもそも利用目的を尋ねることも好ましくないと考えられます。
また、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かは、代替要員の確保の困難性などを考慮要素としますが[4]、代替要員を確保できない理由が恒常的な人員不足であれば、時季変更権は行使できないとされています[5]。
このように、有給休暇の取得が主張されたときに、会社からできる手段は時季の変更のみであり、しかも、それを行使できる場面は限られています。
これと対比されるのが、有給休暇の事後取得です。
有給休暇は、事前に取得の意思表示をすることで就労義務を消滅させる効果を持つものです。
事後取得というのは、あくまでも、会社と労働者の合意がある場合に排除されないというにとどまります[6]。会社が事後取得を認めるか否かは裁量に任されており、認めないことが違法となるのは、年次有給休暇として処理することが当然に妥当であると認められるのに、使用者がもっぱら他の事情に基づいてその処理を拒否するなど裁量権を濫用したと認められる特段の事情が認められる場合に限られます[7]。
そのため、一度、(無断)欠勤した後で、それを一方的意思表示で覆滅することはできません。
このように、有給休暇の事前の取得はほとんど自由であるのに対し、事後の取得は制限されます。
したがって、会社から「有給休暇を使わせない」と言われた場合、事前の意思表示に対して言われたのなら、それは時季変更権を行使するという趣旨なのか、要件を満たすのか、代替の休暇日はいつなのかを尋ねるのが法的には正しいです。
これに対し、事後の意思表示なら、労働者側としては“お願い”ベースになります。社内の他の例を挙げるなどして、説得することになります。
有給休暇の取得や、賃金未払などの労働問題は、法的にも難しいケースが多いです。このような問題でお困りの方は、弁護士に相談されることをお勧めします。
2024年12月2日 弁護士 矢野 拓馬
[1] 菅野和夫・山川隆一『労働法(第13版)』(弘文堂、2024年)495頁。
[2] 最高裁昭和48年3月2日判決(民集27巻2号191頁)[白石営林署事件]。
[3] 最高裁昭和62年9月22日判決(裁判集民151号657頁)[横手統制電話中継所事件]。
[4] 同上。
[5] 名古屋高裁金沢支部平成10年3月16日判決(労判738号32頁)。
[6] 前掲菅野・山川『労働法(第13版)』498頁。
[7] 東京地裁平成5年3月4日判決(判タ 827号130頁)。控訴審は東京高裁平成6年3月24日判決(労判 670号83頁)。