刑事事件

少年事件における「逆送」とは

 20歳未満の者の刑事事件は、まずは刑事裁判ではなく少年審判で裁かれることになります。保護観察や少年院送致など、少年法に基づく矯正措置を保護処分と言い、刑罰を科すのではなく更生に重きが置かれています。
 ただし、一定の場合には、家庭裁判所が決定をもって検察官に送致することとされており、この扱いのことを一般的に逆送と呼んでいます。

 なぜ、少年に対しては少年審判によることが原則とされながら、刑事裁判で裁かれることになるのでしょうか。
 少年審判により逆送とされるのは大きく2つに分けられるとされており、1つは保護不能(保護処分による矯正の見込みがない場合)であり、もう1つは保護不適(事案の内容等から、保護処分で対処するのが不相当と解される場合)です[1]

 従前から、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪であって、その罪を犯したときに少年が16歳以上だったとき(少年法20条2項)は原則として逆送となりましたが、2022年4月以降、18歳又は19歳の者が短期1年以上の罪(強盗罪や不同意性交罪などがこれにあたります)を犯したとき(62条2項)も、原則逆送事件に追加されました。
 法改正の際には、保護不適の領域の拡大の問題として議論されていたようです[2]

 法務省の説明によれば、選挙権年齢や民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、18・19歳の者は、社会において責任ある主体として積極的な役割を果たすことが期待される立場になったことが理由として挙げられています[3]

 少年審判と刑事裁判の流れを図で示すと次のようになります(簡略化しています)。

 では、少年審判で逆送の決定を受けた場合、刑事罰を受けることを待つしかないのでしょうか。

 一般論として、刑事裁判に不服があれば控訴できるのと同じように、少年審判にも不服があれば抗告といって高等裁判所の判断を仰ぐことができます(少年法32条)。
 ただし、逆送決定には抗告をすることができません[4]

 では、どうするのかというと、逆送後の刑事裁判で、逆送決定が不当であったことを主張することになります。
 刑事裁判において、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると裁判所が認めるときは、事件が家庭裁判所に移送されるため(少年法55条)、再度、少年審判が開かれることになります。

 少年事件は、成人の刑事事件と比較して、判断すべき対象が多岐にわたり複雑になるうえ、本人の今後の人生に与える影響が非常に大きいため、専門家のサポートがほぼ必須と言え、弁護士の選任が重要になります。
 少年事件でも成人の刑事事件でも、ご不安な点があれば、当事務所に一度ご相談ください。

2025年3月5日 弁護士 矢野 拓馬


[1] 福岡県弁護士会子どもの権利委員会『少年事件付添人マニュアル』(難波製本、2002年)133頁。
[2] 法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第26回会議議事録(https://www.moj.go.jp/content/001325869.pdf)4頁。2025年3月5日閲覧。
[3] 法務省「少年法が変わります!」(https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji14_00015.html)2025年3月3日閲覧。
[4] 東京高裁昭和45年8月4日決定(家月23巻5号108頁)。

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