離婚をすると、財産分与として、財産が多い方から少ない方へ金銭等で一定の分与が認められるというのは、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
現在の離婚事件の実務では、夫婦それぞれの名義になっている財産(不動産、自動車、預貯金など)をすべて金銭的に評価し、多い方から少ない方へ金銭または現物での給付がなされるのが一般的です。たとえば、夫名義の財産が合計400万円、妻名義の財産が合計200万円とすると、夫から妻へ100万円相当の給付がなされるといった感じです。
それぞれの名義になっているものが全て財産分与の対象になるかというと、そういうわけではありません。夫婦の協力によって得たという性格が認められないものについては、清算の対象とはされません[1]。
財産分与の対象となるのは、婚姻中に得た財産で、相続によって得た財産と第三者から無償で得た財産を除くものと定義されます[2]。つまり、①婚姻前から持っていた財産、②相続によって得た財産、③第三者から無償で得た財産については、財産分与の対象から除かれます(これらを「特有財産」と言います。)。
先ほどの例でいうと、夫が共有財産の他に相続で取得した1000万円相当の不動産を持っていたとしても、財産分与の計算から除かれることになります(もっとも、合意によって分与に含めることは否定されません。)。
では、双方の実家からお金を出してもらって買った不動産など、厳密にどちらの特有財産とも言い切れないものの処理はどうなるのでしょうか。特に、不動産は経年によって価値が減少することがあるため、計算が簡単ではありません。
参考になる裁判例[3]があるので、紹介します。
夫婦が5000万円の不動産を購入し、夫が登記名義人になりましたが、購入資金のうち、23,795,089円(47.59%)が夫の特有財産、4,000,000円(8%)が妻の特有財産、残り(44.41%)が共有財産からの支出であったと認定され、離婚時にはその不動産の価値は3611万円と評価されました。
このような場合、裁判所は、3611万円の47.59%と8%がそれぞれの特有財産になると判断しました。
わかりやすく図で表現すると、次のとおりです。
このように、不動産の価値が下がっても、取得時に支出した割合に従って、特有財産の割合が決められます(すべての事例で同様の処理がされることを保証する趣旨ではありません)。この事例では、16,036,451円が財産分与の計算に含まれます。
この不動産の登記名義は夫でしたので、離婚後に夫単独で使用し続ける場合、仮にほかの財産がなかったとすると、共有部分の2分の1(8,018,225円)と妻の特有財産部分(2,888,800円)の合計である10,907,025円を、夫から妻に支払うことになります。
同じ価値の不動産が全て夫婦の共有財産であるとすれば、財産分与としての支払いは1800万円強になっていたわけですから、結論に与える影響が大きいことがわかります。
このとおり、財産分与は離婚の際には非常に重要になり、争点化することも少なくありません。特有財産に関する主張は、一人だとなかなか難しいことも多いので、弁護士に相談することをお勧めします。
2024年11月1日 弁護士 矢野 拓馬
[1] 窪田充見『家族法(第4版)』(有斐閣、2019年)118頁。
[2] 同上121頁。
[3] 東京家庭裁判所立川支部令和3年9月17日判決(平30(家ホ)44・55)。