借金問題

「国が認めた借金救済制度」とは何なのか

 私自身、インターネットを使っているときに「国が認めた借金救済制度」といった広告を見たことがあります。このコラムをご覧になっている方の中にも、そのような広告を見た経験がある方も多いのではないでしょうか。この記事では、多重債務の案件について重要なことを書きました。ほかのコラムより長いですが、ぜひ最後まで読んでほしいです。

 では、「国が認めた借金救済制度」とは何なのでしょうか。

 それはずばり、債務整理のことです。弁護士や司法書士などの専門家が、債務者から依頼を受け、多重債務に関する問題にあたります。債務整理には、大きく分けて、任意整理・自己破産・民事再生の3つがあります。まずはこの3つについて解説していきます。以下では、主に消費者としての立場でこれらを受任した場合について説明していきます(事業者の債務整理は扱いが異なります)。特定調停という制度もありますが、平成22年以降の10年間で簡易裁判所での利用件数が10分の1以下に減少し※1、あまり利用されなくなっているので、本記事では省略します。

 なお、この3つは全体的な方針であり、個別の債権者との関係で、消滅時効にかかっているものは時効援用、過払金が発生しているものについては過払金返還請求といった対応をとることがあります。

 

1.各制度の比較

 任意整理とは、裁判所を介さずに、返済額や条件について債権者と交渉することをいいます。弁護士の介入により、貸金業者は債務者に対して直接取立てをすることができなくなり(貸金業法21条1項9号)、返済の条件について合意に至れば、和解契約(民法695条)として効力を有することになります。基本的には、将来の利息(利息と遅延損害金は厳密には別ですが、本記事ではまとめて「利息」といいます。)をカットし、元本と既発生の利息を3年から5年にかけて分割で返済することが多いです。弁護士費用は、債権者の数に比例して算出されることが多いです。

 自己破産とは、破産法に基づき、債務者自らが裁判所に破産の申立てをして、債務の免責(支払わなくてよくすること)の決定を受けることをいいます。自己破産の手続は、管財事件同時廃止事件の2つに分けられます。
 管財事件は、換価(売却などにより金銭にかえること)すべき財産がある場合などに振り分けられ、裁判所から選任された破産管財人が、破産者の財産を管理します。管財事件となった場合、弁護士費用、裁判所に納める収入印紙や郵券などの費用のほか、管財人費用として約20万円を納める必要があります。管財事件では、自由財産(99万円以下の現金など、債務者の経済的更生のために破産手続から除外される財産。破産法34条3項・4項。)を除いて、換価され、破産手続において債権者に配当されます。
 同時廃止事件は、換価すべき財産がなく、著しい浪費など目立った問題もない場合に振り分けられます。同時廃止事件では、破産手続開始決定とともに破産手続が終了し、すぐに免責の判断に入ります。
 浪費などは免責不許可事由とされていますが、破産するのが初めてであれば裁量により免責が認められることが多いので、浪費をしたというだけの理由で自己破産を選択肢から外すのはおすすめしません。
 なお、破産手続開始決定から免責許可決定の確定まで、一定の職(弁護士や税理士のほか、警備員など)に就職できないので、自己破産を選択する際には注意が必要です。

 民事再生とは、民事再生法に基づいて、債務を圧縮して3~5年間かけて分割で弁済し、残額を免責してもらうことをいいます。民事再生手続のうち、小規模個人再生を例に挙げますが、最低弁済額(民事再生法231条2項3号・4号)と清算価値(同法174条2項4号)のいずれか高い方を支払うことになります

 最低弁済額は次のとおりです。

 清算価値とは、いますぐ破産すれば債権者に配当されるであろう金額をいいます。
 民事再生(小規模個人再生)は、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みが必要であるなど(同法221条1項)、任意整理や破産と比べて使える場面が限られることに注意が必要です。他方で、自己破産であれば免責が認められないような極めて重度の浪費がある場合でも、民事再生は利用できます。また、自己破産のような就職の制限もありません。そのため、自己破産より有用である場面もあります。

 このように、各制度とも、法律上に根拠があるので、「国が認めた借金救済制度」と説明しても、あながち間違いではないということになります。ただし、画期的な制度というわけではなく、従前から存在していた制度です。

 以上の説明を前提に、簡単に各手続を比較します。なお、弁護士費用については、当事務所の基準のうち、標準的な事件の難易度を想定しています(実費別)。個別具体的な難易度によって上下します。また、他事務所や法テラスの基準では、これと異なることがあります。

 この表からもわかるように、同時廃止となる見込みがあるのであれば、自己破産を選択する方が、全体的な支出を最も少なくできることが多いです。

 不動産などの財産を所有している方は、破産手続が管財事件に振り分けられ、資産が売却されて使えなくなることを心配されるかもしれません。しかし、資産を売却するにあたり、競売になることは少なく、はじめに任意売却が試みられることが多いです。そのため、自宅を親族に買ってもらい、そこから債務者が無償で借りるという形をとれば、従前どおり住み続けることができます。また、自家用自動車については、大津地裁管轄内(=滋賀県内)では、外国車などの高級車を除き、初年度から6年以上経過していれば、破産手続において無価値と扱われ、換価の対象から除かれます。そのため、破産しても使用を続けられることになります。
 このように、破産しても、従前と大差のない生活を送ることができる可能性もあります。裁判所も、破産手続によって債務者に罰を与えることを目的にしているわけではなく、債務者の経済的更生を念頭に置いています。

 実際、破産に関する令和4年の統計※2を見てみると、資産が売却されて債権者の配当に充てられることはほとんどないことがわかります。
 自然人の自己破産事件のうち、同時廃止は約62.9%です。すなわち、自己破産の申立てをした事件の6割以上が、債権者への配当を検討されることすらなく終了しているのです。また、同時廃止に次いで、異時廃止が約28.0%です。異時廃止とは、管財事件に振り分けられたものの、資産を全く換価されなかったか、換価されたとしても債権者に配当するほどに至らなかった(目安としては20万円程度まで)という場合です。つまり、個人の自己破産の場合、9割以上が、全く資産を売却されなかったか、ほとんどされなかったということになります(ただし、不動産の抵当権の実行や、ローン未済の自動車の引き上げなど、破産手続によらない権利行使は除かれています)。ちなみに、債権者への配当がされるに至ったのは約7.2%です(そのほか、取下げ等により終了する場合があります)。

 破産に対して、「身ぐるみをはがされる」などといったイメージがあるかもしれませんが、それは誤解です。むしろ、債務をすべて返済するよりも少ない支出だけで免責を受けることができ、救済手段として有効なことが多いです。

 これに対して、任意整理が救済手段として有効であるかどうかは、慎重に検討しないといけません。自己破産や民事再生より弁護士費用が抑えやすく、手続も簡易とはいえ、債務を数年間にわたって返済し続けなければならないのが負担になることが多いです。また、裁判外の手続のため、債権者から訴訟を提起されても止めることはできません。任意整理は、問題が複雑化する前には有効であることが少なくないのですが、複雑化していれば、どうしても任意整理では限界があります。

 

2.債務整理を依頼するタイミング

 これまで説明したとおり、債務整理を依頼する場合には、3つのうちどれを選択するにしても、弁護士費用がかかります。また、自己破産や民事再生を選択する場合には、裁判所に納める費用もかかります。
 そのため、手元資金が完全に尽きてから対応を検討しても、弁護士による介入が難しいことがあります。まだ若干の余裕があると感じられる状態でも、早めに相談することをおすすめします
 また、親族などから援助が受けられる場合、債権者に対する支払いに充てるよりも、債務整理のための弁護士費用に充てる方が根本的な解決につながります。収入や資産の状況によっては法テラスを利用できることがありますので、相談の際にお伝えください。

 

3.どのような弁護士に依頼するのがよいか

 それでは、債務整理に関する依頼は、どのような弁護士に依頼するのがよいのでしょうか。よい弁護士の定義というのは人によって考え方が違うところではありますが、以下では、私の見解をまとめます。あくまで私個人の見解であり、ほかの見解を否定したり批判したりする趣旨ではありませんのでご了承ください。

 まずは、複数の選択肢を検討したうえで解決策を提示してくれることです。これまで説明したとおり、債務整理で弁護士が取りうる手段は複数あります。そして、どれが適切であるかは、単に借入総額や債権者数で一義的に定まるのではなく、債務者の生活状況など、個別的事情を踏まえて比較検討しなければ判断することができません。このような比較検討のうえで解決策を提示してくれるのであれば、依頼者の納得のいく決定につながります。

 次に、依頼者と直接面談のうえで事情を聴取してくれることです。弁護士が債務整理事件を受任する際には、弁護士が直接面談して事情を聴取することが義務付けられています※3。そのため、弁護士に債務整理を依頼する場合に、事務員等の補助者ではなく弁護士が直接話を聞いてくれるかというのは、受任する弁護士がルールを守っているかということを見る指標になります。

 最後に、弁護士費用について配慮してくれることです。債務整理について依頼する方は、手元資金に悩んでいるのが一般的です。債務整理というのは債務者本人のためにおこなうものであり、高額な弁護士費用を支払ったためにその後に必要な資金が残っていないというのでは本末転倒です。無理のない金額を提示してくれているか、分割払いや法テラスの利用を検討してくれているかなど、相談者の金銭的負担に配慮してくれるのであれば、債務整理がうまくいきやすいと思います。なお、法テラスと契約していない法律事務所もあるので注意が必要です。

 多重債務に関する問題は、弁護士に依頼することで状況を改善できることが多いです。近江八幡市、東近江市、彦根市など滋賀県にお住まいで多重債務問題にお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。また、直接面談が可能であれば、他府県にお住まいの方からのご相談もお聞きできます。

2024年5月15日 弁護士 矢野 拓馬

引用
 ※1:全簡易裁判所の特定調停の申立件数は、平成22年には28,213件(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/375/005375.pdf)、令和2年には2,403件(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/082/012082.pdf)。いずれも2024年5月8日閲覧。
 ※2:最高裁判所事務総局「令和4年司法統計年報1民事・行政編」(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/657/012657.pdf)73頁。2024年5月13日閲覧。令和4年中の自然人の自己破産の既済事件の総数は64,231件で、同時廃止が40,405件、異時廃止が17,954件、配当に至ったのが4,643件である。
 ※3:債務整理事件処理の規律を定める規程(日本弁護士連合会平成23年2月9日会規第93号)第3条。なお、司法書士については、債務整理事件の処理に関する指針(日本司法書士連合会平成22年5月27日改正)第5条に定めがある。

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