犯罪被害者支援

弁護士による詐欺の二次被害の発生

 近年、詐欺の手口というのは巧妙化しています。従来型のオレオレ詐欺から、ロマンス詐欺や投資詐欺など、多様な類型があります。
 当事務所では、詐欺をはじめ、犯罪被害者の支援をメインの業務の1つにしています。

 しかしながら、最近、弁護士による詐欺の“二次被害”というものが相次いでいると報じられました※1弁護士に対して高額の着手金を支払ったものの、担当の弁護士に会うことができず、事件の進捗もわからないというような事態が起きているようです。詐欺に遭った被害者が、被害金を取り返せる見込みが低いにもかかわらず、弁護士から十分な説明を受けないまま、高額な着手金を支払い、弁護士費用の支出によりマイナスが拡大するということが、弁護士による二次被害です。

 このような状況で、東京弁護士会※2や、神奈川県弁護士会※3など、複数の弁護士会が公式に注意喚起しており、被害者の数が少なくないことがうかがえます。

 このような不当な行為をしている弁護士はごく一部だと思いますが、弁護士全体の信用にも関わってくるので、決して軽視できないと思います。

 この記事では、①弁護士二次被害の問題点、②二次被害の防ぎ方、③二次被害に遭っていると思ったときの対応、の3つについて書きます。

 

1.弁護士二次被害の問題点

 弁護士二次被害の問題点は、率直に言って、依頼者を食い物にしているからと言えます。

 国や弁護士会との関係では、弁護士法弁護士職務基本規程などのルールに反するから悪いということになりますが、依頼者との関係では、助けるべき依頼者を搾取しているところに問題があります。

 弁護士も職業ですから、仕事をするうえで対価のお支払いをお願いします。しかし、それは依頼者のために力を尽くすからこそ受け取るものです。あくまでも、依頼者のためになるから対価を受け取るのであって、依頼者のためにならないにもかかわらず、そのことを隠して金銭の支払いを受け取るというのは、背信的な行為と言わざるを得ません。

 一般的に、請求する金額に基づいて着手金を算定しますから、高額な被害金の取り返しのための着手金の額は大きくなりがちです。
 日本弁護士連合会(日弁連)は、かつて、統一的な報酬基準を定めていました。事件の難易度等によって異なりますが、当事務所でも参考にしていますし、ほかの事務所でも採用しているところが多い印象です。参考までに掲載します。

 この基準に従えば、1000万円の返金請求に着手金を59万円(+税)としても、それだけでは直ちに不当に高額とは言えないということになります。しかし、問題は、請求する金額の額面上の大きさを理由に、回収可能性について十分な説明のないまま、着手金の支払いを求めることです。

 ロマンス詐欺や投資詐欺の場合、加害者が行方不明になったり、十分な資産を持っていなかったりして、被害金の回収が困難なことが少なくありません。
 高額な弁護士費用を支払う依頼者は、それを支払えばいくらかは取り返せると考えているでしょう。しかし、支払った弁護士費用さえ賄えない可能性が相当程度あるという状況であれば、本当に支払う覚悟が持てるでしょうか。

 もちろん、回収可能性の低い案件を受任することが一律で不当だとは思いませんし、依頼者の気持ちの整理のために挑戦してみることもあります。それでも、依頼を受ける場合には、リスクやコストを弁護士から説明し、依頼者の納得を得たうえで受任するべきだと考えます。

 

2.二次被害の防ぎ方

 東京弁護士会も指摘するように※4、「依頼する際、その弁護士の法律事務所に行き、その弁護士に現実に会い、その弁護士から直接かつ詳細に説明を聞き、紙の委任契約書に署名押印する。」ということを守るのが一番だと思います。

 弁護士と直接対面することで、その弁護士が依頼者の利益を守ろうとしているか否かを見ることができます。対応するのが弁護士かそれ以外か、対面か遠隔か、相談時間は何分くらいか、聞き取りの主な対象は何かといったことを見てください。

  

3.二次被害に遭っているかもしれないと思ったら

 弁護士二次被害かもしれないと思ったら、最寄りの弁護士に相談することをお勧めします。

 一度弁護士に任せているのにほかの弁護士に相談してもよいのかと思われるかもしれませんが、セカンド・オピニオンは依頼者の権利として理解されており※5依頼者の求めに応じて弁護士がセカンド・オピニオンとしての意見を述べること自体も禁止されていません※6

 ほかの弁護士の意見を聞いたうで考え直すというのは、不安の払拭のためにも大切です。

 

 当事務所では、詐欺被害のみならず、傷害、交通事故、性被害など、犯罪被害に遭われた方のサポートをしています。

2024年7月1日 弁護士 矢野 拓馬

引用
 ※1:NHK「弁護士に着手金払うも対応されず 詐欺の“二次被害”相次ぐ」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240412/k10014420001000.html)2024年6月4日閲覧。
 ※2:東京弁護士会「国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点2」(https://www.toben.or.jp/know/iinkai/hibenteikei/news/post_8.html)2024年6月4日閲覧。
 ※3:神奈川県弁護士会「ロマンス詐欺・投資詐欺被害等のご依頼による二次被害にご注意下さい」(https://www.kanaben.or.jp/news/info/2024/post-412.html)2024年6月4日閲覧。
 ※4:前掲注2に同じ。
 ※5:日本弁護士連合会弁護士倫理委員会『解説「弁護士職務基本規程」第3版』(日本弁護士連合会、2017年)202頁。
 ※6:同上203頁。

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