弁護士として様々な事件に携わっていると、証拠として録音を聞いてほしいと言われることがあります。仮に裁判になったとして、録音は証拠として使用できるのでしょうか。
ここで検討しなければならないのは、①どういった事実や法律行為があったのか、②それを立証するために録音が証拠として認められるか、という2点です。順番が逆なような気もしますが、まずは②から説明します。
録音が裁判で証拠として認められるか(「証拠能力」といいます。)についてですが、一般的には認められることが多いです。民事訴訟においては、証拠能力に特段の制限はされていないからです。
仮に違法な手段で収集された証拠であっても、信義則上これを証拠とすることが許されないとするに足りる特段の事情がない限り、証拠能力は否定されないとされています[1]。
もちろん、違法な手段を使ってでも証拠を収集することを奨励する趣旨ではありませんし、仮にその証拠の証拠能力が認められても、収集手段の違法により損害賠償請求を受ける可能性があることに注意が必要です。
相手方に秘密で録音することが直ちに違法とは言えませんし、仮に違法だとしても特段の事情がない限り証拠能力は否定されませんから、録音については証拠として使用できることが多いです。もっとも、脅迫的な手段を使用するなどした場合、別途、信用性の問題が生じます。
ちなみに、録音に限らず、刑事訴訟において証拠能力が否定されるのは、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合です[2]。民事訴訟と異なり、刑事訴訟手続では、国家機関である警察や検察の違法捜査を抑止する必要があるからです[3]。
では次に、録音によって何を立証するかという問題に入ります。金銭の支払いや物の譲渡などをすると発言したことをもって、法的な拘束力のある契約をしたと認められるでしょうか。
一般的に、売買契約などは書面がなくても成立します(「諾成契約」といいます。)。実際、スーパーやコンビニでの買い物の際、いちいち契約書を作成したりはしないと思います。
では、不動産の売買や、多額の金銭の支払いについてはどうでしょうか。確かに、これらも諾成契約ですから、書面がなくても合意があれば契約は成立します。
しかし、合意があったと言えるかが問題となります。契約が成立したと言えるためには、合意内容の確定性と合意の終局性が必要です[4]。要するに、ファイナルアンサーでなければなりません。
日常的な買い物や少額の賠償とは異なり、書面を作成していない段階で「不動産を譲渡する」や「(多額の)賠償義務を認める」と発言したことをもって、ファイナルアンサーとして法的に拘束力を持たせてよいかという点には、慎重になる必要があります。
したがって、事実関係ではなく法律行為の立証として録音を使用する場合、立証できるか以前に、そもそも法律行為がされたかという点で障害が生じることがあります。
とはいえ、録音が立証手段として有効であることは少なくありません。
現在係争中の事件で証拠の有効性について尋ねたい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
2024年8月1日 弁護士 矢野 拓馬
[1] 神戸地裁昭和59年5月18日判決(労経速 1196号17頁)。
[2] 最高裁昭和53年9月7日判決(刑集32巻6号1672頁)。
[3] 中島宏ら『刑事訴訟法』(日本評論社、2022年)217頁。
[4] 中田裕康『契約法 新版』(有斐閣、2021年)99頁。