離婚・男女問題

養育費の請求はどこの裁判所に行うのか

 養育費を請求したい場合、裁判所に申し立てるのであれば、家庭裁判所に調停を提起するということを、第一に考えると思います。実際、家庭裁判所に提起することが正しいというケースがほとんどです。

 このように、どこの裁判所に提起するかという問題は、法的な用語で管轄と言います。

 家事事件であれば家庭裁判所、通常の民事事件であれば地方裁判所または簡易裁判所というように、事件の種類で管轄が分かれています。
 また、大津地方裁判所や京都地方裁判所など、土地によっても管轄が異なります。

 では、冒頭に書いたような養育費の請求であれば必ず家庭裁判所の管轄になるかというと、そうではないこともあるので要注意です。

 最近の裁判例[1]では、養育費の請求が地方裁判所の管轄になることもあるということを示したものもあります。

 この事件の事実関係は次のとおりです。

  ①夫婦が離婚に際し、高校卒業まで子1人について養育費として毎月3万円支払うとの合意をした。
  ②元夫は養育費を支払っていたが、離婚の際の口外禁止条項等に元妻が違反したことを理由に、養育費の支払いをしなくなった。
  ③元妻が元夫に対して、養育費の請求調停を家庭裁判所に提起した。
  ④調停が不成立となり、審判に移行した。
  ⑤原審(千葉家裁松戸支部)は、元夫に対し、元妻に養育費を支払うよう命じた。

 このような状況で、東京高裁はこの審判を不適法として却下しました。理由は以下のとおりです。

 当事者間には、抗告人(元妻)が相手方(元夫)に対し、子らの養育費として、令和3年1月6日から子らがそれぞれ高校を卒業する3月まで、子1人につき月額3万円を支払う旨の本件合意が存在するものと認められるところ、相手方が、本件合意に基づき、抗告人に対し、子らの養育費を支払うよう命じることを求める場合には、地方裁判所に対し、抗告人を被告とする訴えの提起をし、判決を求める民事訴訟手続によるべきであって、これを家庭裁判所に対して求めることはできない。

 要するに、家庭裁判所に対する調停ではなく、地方裁判所に訴訟を提起せよということです。

 調停を申し立てるのは、調停の成立により、養育費支払義務の存在及び金額を確定させ、仮に任意に支払われなければ、調停調書に基づいて強制執行によって取り立てることができるようにするためです(民事執行法22条7号、家事事件手続法268条1項。強制執行に進むことができる文書を「債務名義」と言います。)。

 支払義務が確定していれば、債務名義になっていなくても、家庭裁判所ではなく地方裁判所に対して訴えを提起すべきことを示した判決ということになります[2]

 せっかく手続を踏んだのに、それが誤りだったとしてやり直しをしないといけなくなるというのは、時間も手間もかかりますから、選択を誤らないようにしないといけません。

 民事手続や家事手続などでご不明なことがあれば、最寄りの弁護士まで相談されることをお勧めします。

2025年4月4日 弁護士 矢野 拓馬


[1] 東京高裁令和5年5月25日決定(判時2592号64頁)。
[2] 匿名記事「判批」判例時報2592号64頁。引用部分は65頁。

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