犯罪被害者支援

なぜ開示請求は弁護士に委任した方が良いのか

 インターネット上で匿名の誹謗中傷を受けた場合、開示請求をして相手方を特定してから、損害賠償請求や削除請求などを行うということが考えられます。

 ここで、これらの手続を弁護士に委任するのか自分で行うのかという選択があります。私としては、開示請求を行う場合には弁護士に依頼することを強くお勧めします。その理由は主に2つです。

 1つ目の理由は、開示請求に限った話ではないですが、弁護士が裁判手続に関する専門家であるということです。
 弁護士は、得意分野や経験年数などの差はあるものの、基本的には司法試験に合格した後に司法修習を経て実務経験を積んでいるので、専門家でない方と比べて裁判に関する知識と経験を有しています。

 そのため、弁護士に任せた方が、手続をスムーズに進められたり、望む結果を得られる可能性が高くなると言えます。

 

 2つ目の理由は、弁護士だけが使える手段が開示請求において強力であるということです。
 その手段とは、弁護士会照会です(「23条照会」とも言います。)。
 弁護士会照会とは、事件を受任している個別の弁護士の申出に基づいて、弁護士会が公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求める制度です(弁護士法23条の2)。

 「照会」という名前になっていますが、任意のアンケートのようなものではなく、原則として回答義務があるものとされています[1]

 そのため、インスタグラムやX(旧:Twitter)などのログイン型のSNSで誹謗中傷を受けた場合、開示請求をすることにより、投稿者のアカウントで使用されている電話番号を特定した後、携帯電話会社に弁護士会照会をして、契約者の住所や氏名を知るという流れになります。電話番号がわかれば、その番号が割り当てられている携帯電話会社がわかるので[2]、照会先も決まります。

 ここで、開示請求で電話番号を開示させることができるのかという疑問があるかと思いますが、これは現在ではできるようになっています。

 インターネットに関する問題を管轄する総務省において、電話番号を開示対象に含めることについての有用性・必要性・相当性が考慮された結果[3]省令の改正により、開示対象に含まれることになりました[4]

 この改正の際、総務省においても、開示請求によって電話番号を知った次のステップが弁護士会照会となることが想定されていました[5]。実際、現在の実務ではこの方法を取ることが一般的と言える状況になっているようです[6]

 この方法は、第2段階の手続に裁判所を介さないので、時間も手間も大幅に節約できる可能性があります。しかも、昨今は本人確認が強化されている関係で、メールアドレスなどと異なり、電話番号は「捨てアカウント」のようなものを作りにくいため、電話番号が判明するというのは本人特定に大きく近づくことを意味します。

 

 開示請求は「手続が複雑で大変」と考える方も多いかもしれません。実際それは間違っていないのですが、弁護士に依頼することで工程を大幅に削減できる可能性があります。

 インターネット上の誹謗中傷でお悩みの方は、弁護士に相談してみることをお勧めします。

2025年9月10日 弁護士 矢野 拓馬


[1] 日本弁護士連合会HP:弁護士会から照会を受けた皆さまへ(https://www.nichibenren.or.jp/activity/improvement/shokai/what.html)2025年9月9日閲覧。
[2] 総務省HP:電気通信番号指定状況(https://www.soumu.go.jp/main_content/000697566.pdf)2025年9月9日閲覧。
[3] 総務省HP:「電話番号」を発信者情報開示請求の対象に追加することについての検討(https://www.soumu.go.jp/main_content/000691023.pdf)3~6頁。
[4] 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律施行規則2条3号、12号。
[5] 前掲注3総務省HP、9頁目。
[6] 宗宮英恵「弁護士会照会の活用法」(NIBEN Frontier 2024年6月号)43頁。(https://niben.jp/niben/pdf/43_bengoshikaisyokai_NF6.pdf)2025年9月9日閲覧。

-犯罪被害者支援