離婚・男女問題

別居中に婚姻費用を支払わないとどうなるのか

 離婚を検討して別居している夫婦において、義務者が権利者に対して婚姻費用を支払わないとどうなるのでしょうか。特に、離婚を成立させるためにプレッシャーをかける目的で、意図的におこなっている場合はどうでしょうか。

 ここで、前提を確認したいと思います。

 婚姻費用とは、夫婦とその未成熟子の共同生活のために必要とされる費用であり[1]、夫婦がたとえ別居していたとしても、離婚するまでは負担する義務があります[2]。実務上は、双方の収入や同居の子の人数などから、支払額が決まります。
 次に、離婚についてですが、相手方が離婚を拒否している場合、民法770条1項各号所定の事由(不貞行為など)があるときに限り離婚をすることができます。これに対し、双方で離婚について真意で合致しているときは、どのような理由でも離婚することができます。これを協議離婚と言います。

 では、離婚届に判を押させることを目的に、兵糧攻め、つまり、別居したうえで婚姻費用を一切支払わないという対応をすることはどうでしょうか。
 念のため断りますが、当事務所としてこのような対応を推奨しているわけではありません。
 裁判例[3]でも、このような状況で離婚は認められないと判断したものがあります。

 この裁判例の事実関係について解説する前に、離婚事由について補足します。
 現在の裁判実務では、婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項4号)があるとき、すなわち、婚姻関係が破綻しているときは離婚が認められますが、不貞行為をおこなった側などの有責配偶者からの離婚の請求は原則として認められません[4]。このような考え方を、「消極的破綻主義」と言います。
 なお、別居が長期間に及んでいる場合、破綻していると判断されることが多いです。

 先ほどの裁判例では、別居期間が4年半を超えていたこともあり、婚姻関係の破綻が認められました。しかしながら、離婚を請求した夫側が有責配偶者にあたるとして、請求が棄却されました。その理由を引用します。

 原告と被告との別居期間が4年6か月を超え,その婚姻関係が破綻するに至った原因は,一方的に被告との離婚を実現させようとした原告が,被告との別居に踏み切るにとどまらず,被告に対して婚姻費用の分担義務を負っていることを顧みることなく,兵糧攻めともいうべき身勝手な振る舞いを続け,婚姻関係の修復を困難たらしめたことにあったと認めるのが相当である。

 離婚をしたいと考える理由は人それぞれかと思いますが、法的に認められた手段とそうでない手段があります。強引な手段に出ることは、配偶者や子供たちを危険にさらすだけでなく、自分自身を不利にする可能性もあります。

 離婚をしたいが法的に検討が必要という方は、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

 2026年3月13日 弁護士 矢野 拓馬


[1] 窪田充見『家族法〔第4版〕』(有斐閣、2019年)73頁。
[2] 東京高裁昭和58年12月16日決定(家月37巻3号69頁)。
[3] 東京家裁令和4年4月28日判決(判タ1532号 245頁)。
[4] 最高裁昭和27年2月19日判決(民集6巻2号110頁)。ただし、別居期間が相当長期間に及んでいる場合に離婚が認められる可能性があることを示した判例として、最高裁昭和62年9月2日判決(民集41巻6号1423頁)がある。

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