日本では三審制が採用されており、多くの裁判は審級順に地方裁判所・高等裁判所・最高裁判所で合計3回まで判断を受けることができるということは、小学校や中学校の社会科の教科書に載っているほど一般的なことかと思います。
また、法務省の資料[1]によれば、三審制が採用されている理由を、審理を慎重に行い、正しい裁判を実現するためと説明されています。
では、上級の裁判所で再度判断してもらえるということは、何を意味するのでしょうか。裁判をゼロからやり直されるということなのでしょうか。
このような、前審と無関係に集めた事実資料に基づき事件の裁判をやり直すことを覆審といいますが[2]、日本では刑事裁判と民事裁判のいずれでも採用されていません。
日本の刑事裁判では、事後審、すなわち、第一審判決当時の証拠のみに基づいて原判決の当否を審査する制度が採用されています[3]。
そのため、刑事裁判の控訴審では、審理を最初からやり直してもらえるのではなく、第一審の判決が妥当かどうかが審理されることになります。
例外的に、第一審の弁論終結前に取り調べを請求できなかった証拠によって証明する事実(刑事訴訟法382条の2第1項)、第一審弁論終結から判決までに生じた事実(同条2項)について主張が許容されるほか、第一審判決後に生じた情状事実(示談の成立など)を控訴裁判所が職権で取り調べることが許容されています(同法393条2項)。
これに対し、民事裁判における控訴審は続審制が採用されています。続審制とは、第一審の口頭弁論終結の時点に立ち返って審理を続行するものであり、第一審で提出された訴訟資料は控訴審判決の基礎になり(民事訴訟法298条1項)、これと控訴審において新たに適法に提出された訴訟資料に基づいて、不服申立てのあった範囲で控訴裁判所が新たな判断をします[4]。
要するに、控訴審が第一審の続きとして行われるということです。
しかしながら、実際の民事裁判の控訴審は、事後審的な運営が多くなってきているとの指摘もあります[5]。
いずれも、違いはありますが、控訴審は第一審を前提にして行われるものです。

したがって、最も重要なのは第一審です。第一審の訴訟追行は、控訴審以降でも裁判の基礎になるからです。
第一審は自分でやってみて、ダメだったら控訴審から弁護士に委任しようと考えている方が時折いらっしゃるのですが、ここまで説明してきたとおり、その考え方は非常に危険です。
第一審からすでに裁判を自身で遂行することが難しいと考えているのであれば、弁護士に委任することを強く推奨します。
2026年8月1日 弁護士 矢野 拓馬
[1] 法務省「資料7-1 紛争解決・司法」(https://www.moj.go.jp/content/001415511.pdf)64頁。2026年7月19日閲覧。
[2] 松本博之『民事控訴審ハンドブック─事後審的運営批判と理論・実務的諸問題の解明─』(日本加除出版、2018年)69頁。
[3] 坂巻匡『刑事訴訟法(初版)』(有斐閣、2015年)625頁。
[4] 前掲・松本『民事控訴審ハンドブック─事後審的運営批判と理論・実務的諸問題の解明─』70頁。
[5] 同上283頁。