共有物の共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます(民法256条1項)。
現物分割のほか、代償分割(誰かの単独所有としてほかの共有者に代償金を支払うこと)や換価分割(売却してその代金を分け合うこと)などの方法があります[1]。
また、夫婦が離婚する際、他方に対して財産分与を請求することができます(民法768条1項)。
各当事者の純資産額をそれぞれ計算し、多い方から少ない方へ支払われることになります[2]。
それでは、離婚に際して、夫婦の共有である財産がある場合には、共有物分割と財産分与のいずれの手続きを利用することになるのでしょうか。理論上、どちらも利用可能なように思えます。

しかしながら、最近の裁判例[3]では、夫婦の共有名義になっている財産についての共有物分割請求を棄却したものがあります。まずは、今回の本題に関連する部分の事実関係を整理します。
①元夫と元妻は、昭和61年に婚姻し、長男をもうけた。
②元夫と元妻は、婚姻期間中、3棟のマンションを購入し、いずれも共有名義になっていた。
③元夫は元妻に対し、平成30年、離婚等を求める別件訴訟を提起した。
④元夫は元妻に対し、令和3年、上記各マンションの共有物分割を求める本件訴訟を提起した。
⑤令和4年6月7日、別件の離婚訴訟が、離婚を認める内容で確定した。
⑥その後、元妻が元夫に対し、財産分与調停を提起した。
⑦裁判中、上記マンションのうち1つが売却された(これを「Aマンション」とし、ほかを「Bマンション」と「Cマンション」とします)。

このような事実関係で、裁判所は、Aマンションに関する共有物分割請求については訴えの利益が失われたとして却下したうえで、Bマンション及びCマンションについて、次のような理由で共有物分割請求を棄却しました。表記を改めている部分があります。「原告」は元夫、「被告」は元妻を指しています。
Cマンション及びBマンションの帰すうが財産分与手続に委ねられた場合には、他の夫婦共有財産と併せてその帰すうが決せられることになり、Cマンションの取得に関する当事者の意向、Cマンションの取得に当たっての被告の特有財産の支出を考慮すると、Cマンションの住宅ローンについての原告の内部的な負担部分をゼロにすることで、被告が代償金を支払わずにこれを単独取得することとなる可能性があるが、これを共有物分割手続で処理する場合には被告が代償金を支払わずに単独取得する余地はないから、Cマンションの帰すうを決するために共有物分割手続を選択することは、被告が代償金を支払わずにCマンションを単独取得する可能性を奪うとともに、代償金の額が被告の資力を上回る場合にはCマンションに居住する被告の自宅を奪うこととなり、被告にとって酷な結果となる。
(中略)
原告が、離婚等請求訴訟において離婚請求を認容する判決が言い渡され、離婚に伴う財産分与手続を進められる余地が生じた後に、本訴請求に係る訴えを提起していること、上記の離婚等請求訴訟においては、Cマンション及びBマンションが財産分与の対象財産となり得る旨の主張をしていたにもかかわらず、本訴訟においては、一転して、財産分与の対象財産にならない旨の主張をしていること、婚姻費用の支払も任意に履行せず、部下よりも貧相な住まいに住む必要はないことや、被告が億ションに住んでいることへの憤りといった理由から、家賃月額29万5000円の住居に居住している旨の供述をするなどしていたこと、Cマンションが財産分与の対象財産にならない旨の主張をしながら、原告が5分の2の持分しか有しない同マンションについて、持分の価格ではなく実質的持分2分の1相当の金銭の取得を希望するなどという一貫しない主張をしていることを考慮すると、共有物分割手続においてCマンション及びBマンションの帰すうのみを先に決することを求める原告の意図は、被告の特有財産の支出等の無形の寄与が考慮された財産分与がされる前に共有物分割手続において持分の価格を取得し、夫婦共有財産の実質的な清算を拒むことで、被告に経済的な不利益を負わせる点にあったと推測される。
(中略)
本訴訟の共有物分割手続によってCマンション及びBマンションの帰すうが決せられることにより原告の受ける利益と被告の被る不利益等の客観的事情のほか、本訴訟の共有物分割手続においてCマンション及びBマンションの帰すうを決することを求める原告の意図とこれを拒む被告の意図等の主観的事情を総合考慮すれば、原告があえてCマンション及びBマンションの共有物分割を請求することは、権利の濫用に該当するというべきである。
判決を要約すると、民法の基本原則の1つである権利濫用法理(民法1条3項)に基づいて、原告の請求は棄却されたということです。裁判所は、元妻が受ける不利益も考慮しています。
そもそも、財産分与には、婚姻中に得た財産の清算という機能があります[4]。財産分与の手続きにおいては、夫婦の財産の全体が対象となり、資産価値そのものだけでなく、取得に至る経緯なども考慮要素になります。これに対して、共有物分割請求は、共有関係を単独所有に移行させるための手続です。すなわち、共有は所有者が複数であるためやむなく拘束された状態にあるだけで、共有者は常に所有権を具体化する権能を有しており、その手段が共有物分割請求というわけです[5]。ここには、夫婦関係における各自の貢献度などの考慮要素はありません。
そのため、この裁判例でも指摘されているように、共有物分割請求だと、財産分与では考慮される事情が考慮されなくなってしまうことがあります。したがって、財産分与における婚姻期間中の財産の清算という機能が失われる結果、一方に不利ということにもなります。
私としても、この裁判例における判断は正当と考えています。
この裁判例の解説はここまでです。ここから先は専門的な内容になるので、難しいと感じた方は読み飛ばしてもらっても結構です。
ところで、この裁判例の論理を採用するならば、財産分与請求が可能な状況で共有物分割請求をすると、婚姻期間中の財産の清算という機能が奪われることになるので、必ず権利濫用により否定されるということになるとも考えられます。しかし、下級審の裁判例を見ると、判断が異なっています。
一般論として、判例[6]における権利濫用の該当性の最高裁の判断枠組みは、「権利が実現されることによって権利者の受ける利益と相手方の被る不利益等の客観的事情のほか、権利者の意図とこれを拒む相手方の意図等の主観的事情をも考慮して決すべきもの」というものです。
この最高裁の判例を引用しつつ、上記の裁判例とは別に、共有物分割請求を権利濫用とした裁判例[7]があります。判断の過程は、前記東京地裁令和6年判決と類似のものでした。
これに対し、権利濫用に当たらないと判断されたものもあります。いくつか紹介すると、離婚訴訟が係属中であるものの離婚が成立しておらず、先に共有物分割の手続きをしても後の財産分与手続でそのことを考慮すれば足りるとしたもの[8]、離婚やそれに伴う財産分与に向けた進展状況に照らして、共有状態を解消するためには共有物分割請求をする以外に方法がなく、相手方に経済的負担を強いるものではないとしたもの[9]などがあります。
このほか、財産分与が請求可能な期間を経過した場合には、共有物分割請求は権利濫用との判断を受けずに認められます[10]。
共有物を分割することは、共有持分権を換価するための重要な権利ですが、その権利行使が棄却となると、費やした時間や支出が無駄になってしまうことにもなります。
適切に権利行使するために、弁護士に相談してみることをお勧めします。
2026年7月1日 弁護士 矢野 拓馬
[1] 工藤寛太ら『共有不動産をめぐるトラブル対応の手引 - 取得・管理・処分のポイント』(新日本法規出版、2024年)5頁。
[2] 武藤裕一・野口英一郎『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』(新日本法規出版、2022年)201頁。
[3] 東京地裁令和6年9月18日判決(判時2635号57頁)。
[4] 窪田充見『家族法〔第4版〕』(有斐閣、2019年)118頁。
[5] 川島武宜・川井健『新版注釈民法(7)物権(2)-占有権・所有権・用益物権§§180~294』(有斐閣、2007年)466頁。
[6] 共有物分割請求事件ではないが、元夫が代表者を務める会社と元妻の間の建物明渡請求事件として最高裁平成7年3月28日判決(裁判集民174号903頁)。URLはhttps://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-62706.pdf(2026年6月25日閲覧)。
[7] 東京地裁令和3年3月9日判決(令元(ワ)17163号)。
[8] 東京地裁令和5年9月8日判決(令3(ワ)19860号)。
[9] 東京地裁令和3年11月24日判決(令2(ワ)22232号)。
[10] 東京地裁令和5年9月21日判決(令5(ワ)9860号)。