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訴訟を提起することが違法となる場合

 訴訟を提起すると、途中で和解や取下げなどで終了しなければ、判決がなされることになります。その中にはもちろん、原告(訴えを提起した側)が敗訴するという場合もあります。

 しかしながら、原告の請求が認められなかった場合でも、被告には応訴(訴訟に対応すること)の負担が生じます。弁護士に依頼していたのであれば、弁護士費用も生じます。

 では、このような精神的・経済的負担について、原告に対して不法行為を理由に損害賠償請求することはできないのでしょうか。

 ところが、判例[1]では、訴訟の提起が不法行為になると判断されるのは、非常に限定されています。判決文をそのまま引用します。

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。

 このように、訴訟の提起が不法行為となる場合は、非常に限定されています。このことについて、裁判を受ける権利が憲法上の権利であるからという説明がされます[2]
 我が国において、裁判を受ける権利は基本的人権として保障されています(憲法32条)。また、民事訴訟を、国家が自力救済を禁止したことの代償として設けられたものと解する考え方もあります[3]

 このように、訴訟を受ける権利は非常に重要ですから、訴訟提起それ自体を違法とするのは、極めて慎重に判断されます。

 それでは、訴訟提起には違法性が無くても、訴訟で主張されている内容が違法とされることはないでしょうか。
 訴訟は原則として公開の法廷で行われるものであり(憲法82条1項)、そこで相手方の名誉を害する内容の主張をすれば、名誉毀損(刑法230条)の構成要件に該当するように見えます。

 しかしながら、裁判例[4]では、違法性阻却される場合があるとされています。以下、判決文を引用します。

民事訴訟における主張立証に際してされた相手方当事者の名誉等の毀損については,通常は相手方当事者に反論反証を行う機会が保障されること,双方当事者の主張立証の当否等については,最終的に裁判所の裁判によって判断されることから,通常は,同訴訟内において回復されることになる。
以上の民事訴訟制度の特質に鑑みれば,当事者の主張立証において相手方当事者等の名誉等が損なわれることがあっても,訴訟活動に名を借りて実質的に個人攻撃の意図をもって行われたものではない場合であって,かつ,争点と関連する攻撃防御のために必要であり,用いられた用語や主張立証の態様において不当であるとは認められないときには,正当な訴訟活動として行為の違法性が阻却されるものと解するのが相当である。

 このような判断がされており、むしろ、普通に訴訟行為を進めている範囲内であれば、結果的に相手方の名誉を害する内容の主張をしていたとしても、基本的には違法性が阻却されると言えます。

 このように、訴訟を提起することや訴訟の中で主張をすることが違法になるのは極めて限られています。したがって、自身が正当と信じる権利を行使するために訴訟を提起するのであれば、それをためらう必要はないと考えられます。
 他方で、訴訟の提起や主張が違法と認定された例は、少ないながらも存在するため、濫用的な訴訟を提起することは決してお勧めしません。

 逆に、そのような不当訴訟で困っている方は、弁護士に相談することをおすすめします。その訴訟での対応だけでなく、違法行為に対するアクションを考えるというのもあります。

 2026年6月8日 弁護士 矢野 拓馬


[1] 最高裁昭和63年1月26日判決(民集42巻1号1頁)。
[2] 別件の訴訟の解説であるが、判例タイムズ1242号108頁。
[3] 三木浩一ら『民事訴訟法(第2版)』(有斐閣、2015年)2頁。
[4] 東京地裁平成18年3月20日判決(判タ1244号240頁)。

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